輸血療法は、貧血や出血などの症状で自らの血液では十分な酸素や栄養素を供給できない患者さんに、他人の血液製剤を輸血することで、生命を維持・改善する重要な治療です。しかし、輸血は適切に行わなければ、副作用や合併症のリスクを伴うため、看護師にとっても緊張する医療行為ですよね。
この記事では、主に赤血球製剤(赤血球濃厚液:RBC-LR)投与について、輸血の基礎知識から、看護師が輸血を行う際に注意すべきポイントまでを分かりやすく解説します。輸血療法に関わる初心者看護師の方をはじめ、輸血の知識を再確認したいベテラン看護師の方にも役立つ内容となっています。
輸血前に行う検査:クロスマッチ(交差適合試験)の意義
赤血球製剤を輸血する時は必ずクロスマッチを行います。では、何のためにどうやって行なっているかを解説します。
クロスマッチとは
クロスマッチとは、患者さんと輸血する赤血球製剤の適合性を調べる検査です。抗原抗体反応が起こらないかを、37℃(人の体温)の試験管内で見て検査します。
- ABO血液型の不適合の検出
- 不規則抗体の検出
クロスマッチで凝集や溶血が起こった場合、不適合血液であるためこの赤血球製剤を患者さんに輸血することはできません。
クロスマッチの行い方
クロスマッチは輸血の直前に行います。クロスマッチ用の採血と輸液バッグに付いているチューブ(セグメントという)を使用して行います。赤血球製剤のセグメントは1パックにつき2本ついています。このセグメントは輸血後に副作用が起こった場合の照合にも使用するため、輸血部で保管されています。
輸血2単位の量は何mlか?
血液製剤は、200mlの献血から得られたものを全て1単位といいます。ゆえに、血液製剤によって1単位の量は変わります。
赤血球濃厚液(RCC-LR )2単位は280mlになります。
- 赤血球濃厚液(RCC-LR )1単位=140ml
- 血小板製剤(PC)1単位= 20ml
- 新鮮凍結血漿(FFP) 1単位=120ml程度
輸血を行う際の準備と手順
赤血球製剤は2〜6℃の冷蔵庫で保存されています。輸血直前に検査室へ取りに行きます。
輸血バッグの確認と照合
輸血指示と血液製剤との確認を、必ず二人で同時にダブルチェックを行います。
- 患者名
- 輸血同意書
- 血液型
- 製剤名、単位数
- ロット番号
- 有効期限
- 照射されているか
- クロスマッチの結果
- 外観(色調変化、破損がないか)
使用物品
輸血には必ずフィルター付きの輸血専用の輸液セットを使用します。必要に応じて延長チューブ等を足します。
輸血ルートの準備
- 目詰まりを防ぐため、血液製剤のバッグをもみほぐし、静かに上下に振って混和させます。
- 血液製剤の2つある接続口のうちどちらか一方を開封し、輸血ルートを差し込みます。作業は点滴台などの上で平らにして行いましょう。(点滴棒にふらさげて行うと血液製剤がこぼれる可能性があります)
- フィルター内を血液で十分満たし、滴下筒内は半分程度満たします。続いてルート内を満たします。
輸血を行うときは単独ルートで行います。他剤を使用していたルートを使用するときは生理食塩液でフラッシュをします。
*CVやCVポートからは原則輸血は行いません。末梢ルートから行います。
輸血を単独ルートで行う理由
→ 輸血製剤は他剤と配合変化を起こしやすいため。
カルシウム含有輸液(ラクテック等) | 血液が凝固する |
ブドウ糖含有液 | 赤血球凝集により泥状化し赤血球同志がくっつきやすくなる |
高カロリー輸液 | 溶血する |
ビタミン剤 | 色調変化、微小凝集、沈殿 |
グロブリン製剤 | 凝集・集合を促進する |
ミノマイシン、トブラシン | 凝固 |
輸血時の留置針のサイズ
輸血を行う際は基本、20Gの留置針で穿刺します。血管が細く留置が難しい場合は、22Gで行います。細い針で投与を行うと溶血のリスクがあります。
輸血投与の実際〜滴下速度と観察項目〜
準備が整ったら輸血を開始します。
輸血の滴下速度
輸血を開始し、最初の10〜15分は1ml/分程度の低速で落とします。その後、5ml/分へ速度を上げます。
速度 | 滴下数換算 | |
輸血開始〜15分 | 1ml /分 | 3秒に1滴 |
15分後以降 | 5ml /分 | 3秒に5滴 |
輸血中の観察項目と看護記録の書き方
輸血投与が終了したら
- バイタルサインを測定し、副作用の出現がないか観察を行います。
- 血液製剤がルート内に残るため、生理食塩液でフラッシュをします。三方活栓などの接続部は特に血液が残りやすく、感染の原因にもなるためきれいに流します。
輸血の副作用
ここでは、輸血で起こりうる各副作用について起こる時期、症状についてまとめています。
輸血開始後15分以内に起こる副作用
輸血を開始して15分以内に起こる副作用は「不適合輸血に伴う症状」と「アレルギー反応」です。上述したように、15分以内が最も副作用を起こしやすいため、輸血開始15分はベッドサイドを離れず観察を行います。
輸血中に副作用が起こってしまったら
すぐに輸血は中止し、医師の指示を仰ぎます。点滴ルートはキープしたままにします。
輸血の主な副作用と発生時期
発生時期 | 原因 | 症状 | |
急性溶血 | 24時間以内 | ABO型不適合輸血 | 発熱、血圧低下、ショック |
遅発性溶血 | 24時間〜数日 | 不規則抗体により免疫反応が起こり溶血する | 貧血、LDH上昇、ヘモグロビン尿 など |
アレルギー反応 | 10分以内 | 発赤、蕁麻疹、掻痒感、呼吸困難、血圧低下、アナフィラキシーショック | |
輸血関連急性肺障害 | 1−2時間、6時間以内 | 血液製剤の白血球抗体と患者さんの白血球抗体とで免疫反応が起こる | 呼吸困難、SPO2低下、肺水腫 など |
輸血後関連循環負荷 | 6時間以内 | 輸血速度が速い、輸血量が多い | 呼吸困難、血圧上昇、頻脈 など |
GVHD(輸血後移植片対宿主症) | 1〜2週間 | 輸血のリンパ球が患者さんの肝臓や骨髄を攻撃することで起こる | 発熱、紅斑、下痢、肝機能障害、汎血球減少 など |
細菌感染 | 4時間以内 | 血液製剤の不適切な保管管理によってバッグ内で細菌が繁殖する | 悪寒、発熱、頻脈、嘔気、背部痛 など |
輸血はチーム医療
輸血療法は、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師など、医療チーム全体で連携して行う必要があります。特に、看護師は患者さんへの輸血前後の説明や観察、記録、副作用への対応など、重要な役割を担っています。
本記事を通して、輸血に関する基礎知識を深め、患者さんに安全で効果的な輸血を提供できる看護スキルを磨いていただければ幸いです。